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呪術廻戦

【呪術廻戦】九十九由基とは?元星漿体の特級術師が残した遺産と思想を考察

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日本に4人しかいない特級呪術師の一人にして、「呪霊の生まれない世界」を目指した異端の術師。
それが九十九由基(つくもゆき)です。

大型バイクにまたがり海外を放浪する自由人。
初対面の相手に異性の好みを聞くという破天荒な人物。
しかしその陽気な表の顔の裏には、呪力そのものの仕組みを変えようとする「原因療法」の思想家としての一面が隠されていました。

この記事では、九十九由基のプロフィールや術式「星の怒り(ボンバイエ)」の詳細、元星漿体という正体、そして羂索との壮絶な最終戦までを余すことなく解説します。
さらに、名前「九十九」と付喪神の符合を五層にわたって分析する独自考察や、五条悟・夏油傑との思想比較まで踏み込みます。

「戦犯」と呼ばれることもある九十九由基は、果たして本当に物語に敗北したのでしょうか。
この記事を読めば、その答えが見えてくるはずです。

※この記事は『呪術廻戦』の重大なネタバレを含みます。未読の方はご注意ください。

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九十九由基のプロフィール

項目 内容
名前(読み方) 九十九由基(つくもゆき)
等級 特級呪術師
声優 日髙のり子
所属 呪術高専(京都校扱いだが実質単独行動)
術式 星の怒り(ボンバイエ)
趣味・特技 バイク
好きな食べ物 チキンブリトー
苦手な食べ物 海藻類
ストレス 任務
正体 元星漿体

九十九由基は、呪術廻戦の作中時代において日本に4人しか存在しない特級呪術師の一人です。
長い金髪のロングヘアと高い身長、整ったスタイルが特徴的な女性術師として描かれています。
特級呪術師にふさわしい圧倒的な攻撃力を持ち、『呪術廻戦』強さランキングでは第7位にランクインしています。

所属は京都校扱いとなっていますが、実際には高専の任務にほとんど従事せず、大型バイクに乗って海外を放浪しながら独自の研究を続けるという、きわめて自由な活動スタイルを貫いています。
高専の制服をリメイクした服を着用しているとされ、組織に属しながらもどこまでも自分流を貫く姿勢がうかがえます。

高専上層部からは「ろくでなし」と呼ばれるなど、組織からの評価は決して高くありません。
しかしそれは彼女が無能だからではなく、「呪霊を倒す」という対症療法ではなく「呪霊を生まれなくする」という根本的な原因療法を追求していたためです。
既存の呪術界の枠組みに収まらない思想こそが、九十九由基というキャラクターの本質を形作っています。

 

人物像・性格:異質な「陽キャ」の裏にある研究者の顔

初対面で「好みのタイプ」を聞く独自の哲学

九十九由基の第一印象を決定づけるのが、初対面の相手に「どんな女が好みかな?」と聞くという独特の習慣です。
これは単なる破天荒なキャラづけではなく、彼女なりの持論に基づいた行動とされています。

九十九は「性癖にはその者の全てが現れる」という信念を持っており、相手の異性の好みを聞くことで、その人物の本質を見極めようとしているのです。
実際に、この質問を通じて弟子となる東堂葵の才能を見出しており、一見ふざけたように見える言動の裏に確かな洞察力が潜んでいることがわかります。

 

呪術師らしからぬ明朗さと人間味

呪術廻戦に登場する術師の多くは、呪いと向き合い続ける過酷な職業柄、どこか陰鬱さや悲壮感をまとっています。
しかし九十九由基はその対極に位置する存在です。
軽妙な口調で相手と接し、褒められるのを期待したりスネたりするなど、非常に人間味にあふれた一面を持っています。

この明朗さは、単にキャラクターの味付けにとどまりません。
呪術師という暗い世界に身を置きながらも陽の空気を保ち続けられるのは、九十九が「呪霊のない世界」という理想を本気で信じているからこそでしょう。
目指すべき未来があるからこそ、現在に押しつぶされない。
その精神的な強さが、九十九の明朗さの源泉だと考えることができます。

 

研究者としての多角的な思考

表面的な陽キャの印象とは裏腹に、九十九由基の内面は極めて分析的です。
呪力の仕組みそのものを変えるという壮大な目標に向けて、「魂の研究」を独自に進めていました。

呪術師でありながら戦闘よりも研究を優先するというスタンスは、呪術廻戦の登場人物の中でも異彩を放っています。
五条悟が「最強の力」で世界を変えようとし、夏油傑が「非術師の排除」で問題を解決しようとしたのに対し、九十九は「システムそのものの理解と改変」というアカデミックなアプローチを選んだのです。
この研究者気質は、後に虎杖悠仁に受け継がれる重要な遺産となります。

 

術式「星の怒り(ボンバイエ)」:攻撃極振りの特級術式

生得術式「星の怒り(ボンバイエ)」の仕組み

九十九由基の生得術式「星の怒り(ボンバイエ)」は、自身に仮想の質量を付与するという能力です。

この術式の核心は「仮想」の質量であるという点にあります。
実際の質量が増加するわけではないため、速度の低下や肉体への負荷が一切発生しません。
つまり、通常のスピードと身軽さを維持したまま、パンチやキックに膨大な質量をのせることができるのです。

わかりやすくたとえるなら、見た目はいつも通りのパンチなのに、受けた側にはダンプカーの衝突のような衝撃が走る――それが「星の怒り」の本質です。
攻撃力に全振りしたこの術式は、パンチ一発で特級呪霊クラスを消し飛ばすほどの破壊力を持つとされています。

ただし、この術式には重要な制約があります。
仮想質量を付与できる対象は、九十九由基自身か、式神「凰輪(ガルダ)」のみに限定されます。
他者に質量を付与して強化するといった応用はできません。
また、術式自体は攻撃に特化しているため、防御面は九十九本人の身体能力と呪力量に依存します。
この「攻撃極振り」の構造が、九十九の戦闘スタイル全体を規定することになります。

 

式神「凰輪(ガルダ)」:唯一の術式共有者

凰輪(ガルダ)は、九十九由基が使役する式神です。
蛇のような長い体を持ち、状況に応じてボール状に丸まったり、鞭のように伸びたりと自在に変形することができます。

凰輪の最大の特徴は、九十九以外で唯一「星の怒り」の付与対象となれる存在であるという点です。
九十九が凰輪に仮想質量を付与して蹴り飛ばせば、それだけで凄まじい破壊力を持つ飛び道具と化します。
作中205話で初登場した際には、概念による防御すら貫通する威力を見せ、羂索の両腕を千切り飛ばすほどの戦果を挙げました。

この「術者+式神」の二段構えにより、九十九は近接戦闘と中距離攻撃の両方を高い破壊力で行うことが可能です。
攻撃特化型の術式の弱点を、式神による攻撃手段の多様化でカバーするという合理的な戦闘設計がうかがえます。

 

拡張術式「ブラックホール」:世界を飲み込む最終手段

「星の怒り」の拡張術式が、自身に無制限の質量を付与して超高密度の重力を生み出す「ブラックホール」です。

その威力は文字通り規格外であり、天元の結界がなければ世界全体に影響を及ぼすほどの規模とされています。
九十九が特級呪術師として認定された根拠は、まさにこの拡張術式の存在にあると考えられています。

しかし、ブラックホールは事実上の自爆技でもあります。
無制限の質量付与は九十九自身をも飲み込む結果となるため、使用すれば術者の生存はほぼ不可能です。
実際に九十九は羂索との最終戦でこの技を使用し、命を落としています。

「星の怒り」が「制御された質量付与による精密な攻撃」であるのに対し、ブラックホールは「制御を放棄した全力の質量付与による無差別破壊」といえます。
攻撃極振りの術式を、さらに限界を超えて振り切った先にある最終手段。
それがブラックホールの本質です。

 

その他の戦闘能力

九十九由基は「星の怒り」以外にも複数の戦闘技術を習得しています。

反転術式を習得済みであり、深い傷も短時間で治癒できる高い回復力を持っています。
攻撃特化型の術式を持つ術師にとって、自己回復能力の有無は生存率を大きく左右するため、反転術式の習得は戦略上きわめて重要な意味を持ちます。

また、領域展開も習得済みとされていますが、作中で披露される場面はなく、その詳細は明かされていません。

さらに特筆すべきは、シン・陰流「簡易領域」の使い手であり、かつ他者に教授できる立場にあるという点です。
弟子の東堂葵に簡易領域を伝授しており、九十九自身も敵の領域展開に対する防御手段として活用しています。
攻撃極振りの術式を持ちながら、反転術式と簡易領域で防御面を補完するという、合理的な戦闘体系を構築していたことがわかります。

 

主要な人間関係

夏油傑との邂逅:「理想」を語った代償

九十九由基と夏油傑の出会いは、呪術廻戦の物語において極めて重要な転換点です。

特級呪術師として覚醒した直後の夏油に対し、九十九は自らの理想である「呪霊のない世界」のビジョンを語りました。
そしてその実現手段として二つの方法を提示します。
一つは「全人類から呪力を取り除くこと」、もう一つは「全人類が呪力をコントロールできるようにすること」です。

この会話の中で、夏油が「非術師を皆殺しにすれば呪霊は生まれなくなるのでは」と問いかけた際、九十九は一瞬「それはアリだ」と認めた上で、「だが残念ながら私はそこまでイカレていない」と距離を置きました。

この九十九の対応は複数の解釈が可能です。
九十九は論理的には夏油の提案を否定していません。
しかし、理屈の正しさと実行の是非は別問題だという線引きを明確にしました。
九十九が夏油の闇堕ちに間接的な影響を与えたとする見方もありますが、夏油の転向は九十九との会話だけでなく、星漿体・天内理子の事件や呪霊を取り込み続ける苦痛など、複合的な要因が重なった結果であることに留意すべきでしょう。

 

東堂葵との師弟関係:「好みのタイプ」の起源

九十九由基が最も深い影響を与えた人物の一人が、東堂葵です。

九十九は小学3年生だった東堂の才能を見出し、弟子として迎え入れました。
シン・陰流「簡易領域」の伝授をはじめとする直接的な戦闘指導に加え、九十九の人格そのものが東堂の人間形成に大きな影響を与えています。

東堂のトレードマークともいえる「好みのタイプを聞く」という習慣は、まさに師匠である九十九から受け継いだものです。
さらに、公式ファンブックによれば、東堂の好みのタイプである「タッパとケツがデカい女」は九十九由基そのものを指しているとのこと。
東堂にとって九十九は師匠であると同時に、理想の女性像の原型でもあったということになります。

この師弟関係は、後に九十九が残した「遺産」を語る上で欠かせない要素です。
東堂が渋谷事変で虎杖悠仁を導いたことを考えると、九十九の教えは東堂を介して虎杖にまで波及しているといえます。

 

天元との因縁:元星漿体としての怒り

九十九由基の正体が「元星漿体」であったという事実は、物語の後半で明かされた重大な設定です。

星漿体とは、不死の術師・天元と同化することで天元の肉体を安定させるための存在です。
本来であれば、九十九は天元と同化して自らの人格を失う運命にありました。
しかし何らかの理由で同化は行われず、九十九は星漿体としての役割を免れて生き延びました。

この過去が、天元に対する九十九の複雑な感情の源泉となっています。
天元が星漿体と同化せずとも理性を保てていたという事実を知った九十九は、これまで犠牲となってきた他の星漿体たちの命は何だったのかという怒りを抱いたとされています。

それでいながら、薨星宮(こうせいきゅう)で天元の護衛を務めるという矛盾した行動をとっているのも九十九の複雑さを物語っています。
個人的な怒りを抱えながらも、呪術界全体のために天元を守るという判断を下す。
理想主義者でありながら現実的な判断もできるという、九十九の多面的な人物像がここに凝縮されています。

 

虎杖悠仁への間接的遺産

九十九由基と虎杖悠仁に直接の血縁関係はありません。
一時期、九十九が虎杖の母親ではないかという説がファンの間で囁かれましたが、物語の中でこの説は否定されています。

しかし、九十九が虎杖に残した「間接的な遺産」は極めて大きなものでした。
九十九が生涯をかけて取り組んだ「魂の研究」の記録は、脹相(ちょうそう)を介して虎杖の手に渡りました。
この研究記録が、虎杖が後の宿儺との最終決戦において「魂を捉える打撃」を完成させるための重要なヒントとなったのです。

直接会話した場面はわずかでありながら、九十九の研究成果は次世代の術師によって実戦に活かされた。
この「遺産」の連鎖こそ、九十九由基というキャラクターの物語的な意義を端的に示しています。

 

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作中での活躍

※以下、呪術廻戦の重大なネタバレを含みます。未読の方はご注意ください。

過去編での登場

九十九由基がアニメで初めて姿を見せたのは、第1期第20話です。
過去編において特級呪術師となった直後の夏油傑と邂逅し、「呪霊のない世界」という理想を語る重要なシーンが描かれました。

また、東堂葵が小学生だった時期に彼と出会い、師弟関係を結んだエピソードも過去の出来事として語られています。
この二つの過去の出会いが、後の物語展開に大きな影響を及ぼすことになります。

 

渋谷事変での帰還

渋谷事変では、海外での研究活動から帰国した九十九が参戦しました。
ここで加茂憲倫(かものりざね)、すなわち羂索と対峙し、夏油傑の遺体を乗っ取った羂索の正体に言及する場面が描かれています。

渋谷事変における九十九の出番は限定的でしたが、羂索という存在との因縁がこの時点で明確に提示されたことは、後の最終戦への伏線として重要な意味を持っていました。

 

薨星宮での羂索との最終戦(205話~208話)

九十九由基の物語のクライマックスとなったのが、薨星宮での羂索との最終決戦です。

天元の護衛として薨星宮に待機していた九十九は、天元を狙って侵入してきた羂索を迎え撃ちます。
205話で式神・凰輪(ガルダ)を初披露し、「星の怒り」を纏った凰輪の攻撃で羂索の両腕を千切るなど、序盤は九十九が圧倒する展開となりました。

しかし戦況は羂索の領域展開「胎蔵遍野(たいぞうへんや)」によって一変します。
領域内で重傷を負った九十九は、共闘していた脹相と共に肉弾戦への切り替えを余儀なくされます。

決定的だったのは、羂索が繰り出した「極小のうずまき」による攻撃でした。
これにより九十九は上半身と下半身を切断されるという致命傷を受けます。

もはや勝機がないと悟った九十九は、最後の力を振り絞って拡張術式「ブラックホール」を発動。
自らの体に無限の質量を付与し、羂索を道連れにしようとしました。
しかし羂索は「反重力機構(アンチグラビティシステム)」を使ってブラックホールの重力圏から脱出。
九十九は自らが生み出したブラックホールに飲み込まれ、208話(23巻収録)で死亡しました。

 

死後の影響:次世代への種

九十九由基は死亡しましたが、彼女が残したものは消えませんでした。

前述の通り、「魂の研究」の記録は脹相から虎杖悠仁の手に渡り、虎杖の「魂を捉える打撃」完成に貢献しました。
この打撃技術は宿儺との最終決戦において決定的な役割を果たしています。

また、東堂葵に伝授した簡易領域の技術や、「好みのタイプを聞く」という精神的な影響も含めれば、九十九の遺産は物語の最終局面に確実に接続されていたといえます。
戦場で散った九十九の人生は、次世代の手によって結実したのです。

 

独自考察:名前「九十九」と付喪神が示す運命

ここからは筆者独自の考察をお届けします。
九十九由基の「名前」に込められた意味を、五つの層から読み解いてみましょう。

 

第一層:「付喪神」と「あと一つで百」

「九十九(つくも)」という名前から真っ先に連想されるのは、「付喪神(つくもがみ)」です。
付喪神とは日本の伝承に登場する概念で、百年を経た道具や器物に魂が宿って精霊となったものを指します。

そして「九十九」という数字は、「あと一つで百に届かない」数です。
百年で付喪神が誕生するなら、九十九年ではまだ到達していない。
この「到達しきれていない」というニュアンスが、九十九由基の人生を暗示していたのではないか。
これが考察の出発点です。

 

第二層:「物に魂を宿す」構造の符合

付喪神は「本来意思を持たない物に魂が宿る」存在です。
一方、九十九の術式「星の怒り」は「本来存在しない質量を物に付与する」能力です。

「本来そこにないものを付与する」という構造が、付喪神と術式の間で見事に共通しています。
付喪神が「物に魂という本来ないものを宿す」のであれば、九十九由基は「物に仮想質量という本来ないものを宿す」術師。
名前が術式の本質をそのまま体現しているのです。

 

第三層:「魂の研究者」としての象徴性

九十九由基は戦闘だけでなく、「魂の研究」にも生涯を捧げました。
付喪神が「魂が宿る」という概念そのものであることを考えると、「九十九(つくも)=付喪(つくも)」という名前は、魂の研究者としての九十九のアイデンティティを象徴しているとも読めます。

名前そのものが研究テーマの暗示になっているという構造は、呪術廻戦という作品の緻密なネーミングセンスを物語っています。

 

第四層:「あと一歩」が届かなかった人生

ここが最も切実な符合です。
九十九由基の人生は、あらゆる場面で「あと一歩」が届きませんでした。

  • 星漿体として天元との同化は果たせなかった(あるいは免れた)
  • 羂索を道連れにしようとしたが、ブラックホールから逃げられてしまった
  • 「呪霊のない世界」を生前に実現することはできなかった

「九十九=あと一つで百に届かない数字」という名前と、あと一歩で目的を達成できなかった九十九由基の人生が、痛切に重なります。
芥見下々先生がここまで意図していたかは定かではありませんが、結果として名前が人生を予言していたかのような構造が生まれているのです。

 

第五層:「百」に到達させたのは次世代だった

しかし、この考察にはもう一層あります。

九十九が「九十九」のまま――つまり「あと一歩」が届かないまま終わったとしても、その「あと一つ」を埋めたのは次世代でした。
東堂葵は九十九から受け継いだ教えで虎杖悠仁を導き、虎杖は九十九の「魂の研究」を基に宿儺を打倒する力を手にしました。

つまり、九十九の「九十九」は、東堂や虎杖という次世代の手によって「百」に到達したのです。
自分一人では完成しなかった数字が、他者を通じて完成する。
これこそが九十九由基という名前に込められた、最も美しい物語的構造ではないでしょうか。

 

独自考察:「原因療法」の思想:五条・夏油・九十九、三者三様の理想

呪術廻戦には、「呪霊のない世界」あるいは「呪術界の変革」を目指した三人の特級術師が登場します。
五条悟、夏油傑、そして九十九由基です。
三者はいずれも同じ「問い」に向き合いながら、まったく異なる「回答」を出しました。
ここではその思想を比較し、九十九の立ち位置を浮き彫りにします。

 

五条悟の回答:「力による現状打破」

五条悟が選んだのは、自らの圧倒的な力で呪術界の腐敗した権力構造を打ち壊し、その上で次世代の術師を育てるという方法です。
最強の個であることを武器に、教育という形で未来を作ろうとしました。

このアプローチは「対症療法の究極形」ともいえます。
呪霊そのものを消す仕組みは作らず、呪霊と戦える人材を増やすことで問題に対処する。
五条自身もこの限界を理解していたからこそ、自分がいなくなっても大丈夫なように教え子を育てていたのでしょう。

 

夏油傑の回答:「発生源の排除」

夏油傑が最終的にたどり着いたのは、呪霊の発生源である非術師を排除するという方法でした。
論理的に突き詰めれば、呪力を持ちながらコントロールできない非術師がいなくなれば呪霊は生まれなくなるという理屈は成立します。

しかし、これは「原因を除去する」のではなく「原因を抹殺する」という手段であり、非人道性の問題を孕んでいます。
九十九が「そこまでイカレていない」と距離を置いたのは、論理的正しさと倫理的正しさは別物だという認識があったからでしょう。

 

九十九由基の回答:「システムそのものの変革」

九十九が選んだのは、呪力の仕組みそのものを変えるという「原因療法」でした。
全人類から呪力を取り除くか、全人類が呪力をコントロールできるようにするか。
いずれにしても、システムの根本を書き換えることで呪霊の発生そのものを防ぐという発想です。

これは三者の中で最も根本的であると同時に、最も実現困難なアプローチです。
五条のように力で解決するわけでもなく、夏油のように犠牲を強いるわけでもない。
代わりに、途方もない研究と時間を要する道を九十九は選びました。

 

三者の結末と「遺産」の行方

興味深いのは、三者の結末です。
五条は宿儺との戦いで敗れ、夏油は呪詛師に堕ちた末に命を落とし、九十九は羂索との戦いで散りました。
三人ともが、生前に自らの理想を完全に実現することはできなかったのです。

しかし「次世代に何を残したか」という視点で見ると、その遺産の質は大きく異なります。
五条は教え子たちの「戦う力」を残し、夏油は反面教師としての「思想の教訓」を残し、九十九は「魂の研究という知識」を残しました。

そして最終的に宿儺を打倒する決め手となったのは、虎杖の「魂を捉える打撃」でした。
これは九十九の研究が直接的な起源となった技術です。
つまり、最終局面において最も直接的に「勝利」に貢献したのは、九十九の遺産だったともいえるのです。

「対症療法ではなく原因療法を」という九十九の思想は、皮肉にも彼女自身の人生にも当てはまりました。
自分の世代で結果を出す(対症療法)のではなく、次世代に知識の種を蒔く(原因療法)ことで、長い時間をかけて結実させる。
九十九由基は、自らの思想を自らの人生で体現した人物だったのです。

 

まとめ

九十九由基は、呪術廻戦という物語において「未完成」を体現したキャラクターです。

日本に4人しかいない特級呪術師としての圧倒的な攻撃力。
「星の怒り」と「ブラックホール」という、攻撃極振りの壮絶な術式。
元星漿体としての複雑な過去。
羂索との最終戦で見せた覚悟と壮絶な散り際。
そして「呪霊のない世界」を目指した原因療法の思想。
いずれをとっても、九十九由基は一面的に語りきれない多層的な魅力を持つキャラクターです。

「戦犯」と呼ばれることもある九十九ですが、その評価は表面的だと筆者は考えます。
確かに九十九は羂索を倒すことができず、自らの命を落としました。
しかし彼女が残した「魂の研究」は虎杖の手で結実し、東堂に伝えた教えは間接的に多くの術師を救いました。

名前の「九十九」が示す通り、彼女の人生は「あと一歩」が届かないまま幕を閉じました。
けれどもその「あと一つ」は、次世代の手によって「百」に到達しました。
未完成の人生が、他者を通じて完成する。
これこそが九十九由基というキャラクターの、最も美しい物語的結末ではないでしょうか。

『呪術廻戦』を読み返す際は、九十九由基の言動の裏にある「原因療法」の思想に注目してみてください。
そこには、目の前の敵を倒すことよりも、未来の世界を変えることを選んだ一人の研究者の、静かな情熱が見えてくるはずです。

 

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